高木崇雄『わかりやすい民藝』(D&DEPARTMENT PROJECT)の感想です。
先行販売で手に入れ、読みました。
「民藝とは何か?」がわかりやすく書かれ、今まで読んだ「民藝」に関する書籍の中で、一番すっと理解できる本でした。
「民藝とは何か?」がよくわからない
私は世間のいう「民藝」っぽいものが好きではあります。
手仕事のうつわ、かご、織物など。
しかし、「民藝」の提唱者である柳宗悦の「民藝」が何か?を言葉で説明するのは難しいと考えていました。
柳の書いたものを読んで、なんとなくこういうことかな?と感じるところはあっても、
現代にも生きた考えとして「民藝」をどのようにとらえるべきかわかりませんでした。
過去の記事では、柳宗悦『民藝とは何か』の一部要約と感想を書いています。
その中で疑問にあげたのは、
- 廉価なもの、日常にありふれたものが「民藝」なら、工業化された現代において、「民藝」とはなんだろう?
- 「民藝」も柳が批判した茶の世界のように、閉鎖的な美の世界になってはいないだろうか?
- 「直観で美しいと感じるもの」を論じることができるのだろうか?
でした。
いくつか疑問が出てきた「民藝」。
それでも不思議な魅力のある「民藝」。
上の記事を書いた後、最近の人たちが書いた「民藝」に関する本をいくつか読みました。
しかし、それらの書籍は、柳の「民藝」の定義を再確認するものではなかったため、私は疑問を抱いたままでした。
そして、今回、高木崇雄著『わかりやすい民藝』を手に取ったというわけです。
柳の個人史・著述、当時の社会的背景から「民藝」を読み解く
『わかりやすい民藝』は、柳宗悦の「民藝」とは何か?について、迫る内容でした。
1章の「これまでの〈民藝〉」では、柳宗悦がどのような経緯で「民藝」という言葉を使い始めたのか、なぜ「民藝」という言葉を使わないといけなかったのかということが書かれています。
本書では、柳の言葉を引用しつつ、柳の個人史や当時の社会的な背景から、カウンターカルチャー(抵抗文化)として生まれた「民藝」が書かれていて、なるほど、と思いました。
この1章は、私は今まで読んだ「民藝とは何か?」について書かれた文章の中で、一番すっと理解できる内容でした。
今の時代の「民藝」は?
2章は、著者の高木さんを含む4者の対談でした。
ほかの三人は、D&DEPARTMENTの相馬夕輝さん、ナガオカケンメイさんと、「スタジオ木瓜」の日野明子さんです。
対談のテーマは、私たちと同時代の「民藝」です。
無名と有名の問題、工業製品は「民藝」じゃないのか問題も、言及があります。
1章で「民藝」と時間の話があったので、「D&DEPARTMENT PROJECT」の志向する「ロングライフデザイン」が、「民藝」に近いということに、なるほどな、と思いました。
しかし、あくまでも「民藝」に近いものであって、今となっては、何かを「民藝」だと断言することはできないのだろうなと思います。
そういうところに、「民藝」という考えの弱さを感じます。
柳たちが「民藝」と認めるもの以外は、「民藝」として認められない感じであるとか。
名称というのは、世の中にある有象無象を特定するための道具なのに、厳密に定義されることを嫌うというような感じであるとか。
あわせて、カウンターカルチャーとしての「民藝」だったわけだから、もう、社会状況が変わった現代において、「民藝」にとらわれなくてもいいんじゃないかという気持ちも沸いてきます。
高木氏は、対談の中で、次のように語っています。
〈民藝〉という言葉を、狭く、限定的な意味で使うだけではマニアの趣味に過ぎなくなってしまう。どこかで「デザイン」といった、今を生きる言葉につなげないと、結局は〈民藝〉もこの先、生きてはいけないんです。
(高木崇雄『わかりやすい民藝』より引用)
「民藝」を、現代に生きる考えとして、どのようにとらえればよいのか。
まだまだ考える必要のある問題だと思いました。
工芸店店主としての視点など
3章では工芸店店主でもある著者が店主目線でのお話、4章では「民藝」を掘り下げる推薦図書が紹介されています。
工芸店の話の中で、工芸品を選ぶときのポイントの話がありました。
そのポイントの1つに、「無理に買わない」とあり、きっと、いい店主さんなんだろうなと思いました。
「民藝」がなんだかよくわからない人たちへ
あれこれと書いてきましたが、『わかりやすい民藝』は、柳宗悦の「民藝」がなんだかよくわからないけど、わかりたい人におすすめの一冊であることは断言できます。
その辺のまとめサイトに書いてある説明を読んで、「理解できたぞ!」と思う人には必要のない書かもしれませんが、いちいち引っかかって、なんだか気になってしまう人には、是非、手に取ってほしい本です。