志賀直邦『民藝の歴史』(ちくま学芸文庫)の感想です。
民藝運動の歴史、同人たちに興味を持った方におすすめの一冊です。
表紙の絵は柚木沙弥郎です。
著者について
志賀直哉みたいな名前の著者だなーと思ったら、著者は志賀直哉の甥でした。
その縁により、1930年生まれの著者は若い頃から身近に白樺派や民藝の同人がいたそうです。
大学卒業後に今も銀座に民藝店を構える株式会社たくみに入社。
本書刊行時には、たくみの社長で、東京民藝協会の会長だったそうです。
全36章、400頁を超えるボリュームで民藝の歴史が語られます。
時折挟まれたエピソードトークが興味深く、民藝の同人の近くいた著者だからこそ書くことができた内容だと思いました。
民藝の同人関係がよくわかる
民藝に興味を持ち、名前は知っているけれど、その人や地域が民藝運動の中でどういう立ち位置なのか知らないということがありました。
本書では、柳宗悦、濱田庄司、河井寛次郎といった中心メンバー以外にも、民藝運動と関係のある人物や地域に焦点が当てられています。
「この人とこの人はこういう関係なのか」「ここの工芸は民藝の人たちがアドバイスしていたのか」など、すっきりしたことがいくつかありました。
また、民藝というと、柳宗悦の言説に注目しがちでしたが、柳一人だけでなく、たくさんの賛同者がいたからこそ、今日にも続いている運動なのだなと改めて感じました。
柳宗悦かっこいい
とはいえ、柳宗悦かっこいいなとも感じました。
国家主義が強い時代であったにもかかわらず、柳青年は朝鮮併合に批判的な文章を雑誌で発表しようとしたり(検閲によりその部分は削除されてしまった)、
朝鮮民芸美術館を設立する資金集めのために各地で声楽家の妻の音楽会を開催したりしたそうです。
柳宗悦は若い頃から情熱と勇気のある人だったのですね。
このような柳の人となりも、民藝運動が人々の賛同を集めた要因の一つだったのだろうと思います。