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未来少年コナンが何故こんなに面白いのか? 考察2

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2020年5月よりNHKで再放送される「未来少年コナン」。

宮崎駿の「初監督作品」(クレジットでは演出ですが、実質は監督)で、その後のジブリ作品と通じるところがある長編アニメーションです。

前回に引き続き、「未来少年コナン」が何故こんなに面白いのかについて、考察していきます。

 (以下、ネタバレ注意です。)

 

↓【前回の考察1】

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主人公とヒロインだけじゃない!「名脇役」

「未来少年コナン」は、主人公のコナン、ヒロインのラナだけでなく、脇役も魅力的です。

今回は、ジムシィ、モンスリーについて書こうと思います。

ダイスもいいのですが、ここでは省略します。

 

場を和ませる野生児ジムシィ

ジムシィは、緊張状態が続くこの物語において、ユーモアで和ませてくれる存在です。

最初は野生児まるだしという感じで、コナンとラナの関係を「いいな」という素朴さがいいですね。

また、ジムシィが世話している豚の名前が、「うまそう」っていうのもいいです(荒木弘「銀の匙」の豚の名前は「豚丼」でしたね)

 

ジムシィは、最初、素朴な感じのキャラでしたが、第17話「戦闘」では皮肉っぽいことも言っています。

第17話では、インダストリアが攻めてくる中で、ハイハーバーの人々が「武器を持って戦うか」それとも「武力以外で解決できないか」を議論します。

そして、最終的に、ハイハーバーを守るため、武器を持って戦うことを選ぶというシリアスなシーンです。

そのシーンは、ジムシィの次の一言で終わります。

ジムシィ「あったり前のこと決めるのに、もたもたしてんな」

この作品の思想性については後述しますが、憲法9条の問題が頭にある日本人にとっては身につまされます。

 

他にも、緊張が高まる場面において、ジムシィによって緊張が緩むことが何度もあります。

第18話で、ジムシィを含むハイハーバーの重要人物がインダストリアの人質になり、「ハイハーバーの住民が逆らった場合、人質が銃殺される」と発表されました。

その後のジムシィの「有力者はつらいね」。

 

第26話では、コナンの帰りを心配するラナの前で、かける言葉がないジムシィが、マグカップの跡がつくまで、飲んだふりを続けていました。

 

ジムシィがいなかったら、「未来少年コナン」はハラハラドキドキが多いため、見てて結構疲れる作品だったかもしれません

 

裏の主人公・裏のヒロインであるモンスリー

モンスリーは最初、敵としてコナンの前に姿を現します。

しかし、最後には味方になり、かわいい花嫁姿まで見せてくれます。


従順で可憐なヒロインであるラナに対し、攻撃的でかっこいいモンスリーは裏のヒロインといえるでしょう。

「ラナとモンスリー、どっちが好きですか?」という問いが成り立つくらいに、脇役だけれど魅力的なキャラクターです。

 

また、物語の主人公はコナンであるけれど、裏の主人公はモンスリーなのではないかと思うくらいに、この作品の中で変化を遂げるキャラクターです。

 

「敵をいかに味方にするのか」という見せ場

少年漫画などでは、敵が仲間になるということはお決まりの描写です。

「未来少年コナン」では、ジムシィやダイスも最初は敵でしたが、コナンの仲間になりました。

考察1で述べたように、少年漫画などでは、敵がいかに強いか、その敵に主人公にいかに勝つかが見せ場です。

 

それとともに、いかに敵を仲間にするのかという見せ場があります。

とくに主人公が強く憎んでいるなど関係が悪い相手であればあるほど、仲間にする過程を書くのは難しくなります。

 

コナンの親代わりであった「おじい」の死は、モンスリーたちが「のこされ島」に来なければ起こらない事件でした。

その後も、コナンがインダストリアにたどり着くと、コナンをとらえるなど、モンスリーはコナンの敵であり、視聴者にとって印象がよくない役でした

 

中庭のシーンが鍵

そのような敵役であったモンスリーが、主人公になるシーンがあります

それは、第19話「大津波」の中庭でのシーンです。

ハイハーバーで、コナンたちがガンボートを爆破し、ガンボートに幽閉されていたラナの生死が不明になります。

そして、モンスリーは、壊れているバラクーダ号を代わりに使用するため準備をするよう部下に指示します。

インダストリア側が危機的な状況の中で、モンスリーは部下たちに余裕を見せます。

弾薬の在庫の報告を受ける際にも、モンスリーは、20年ぶりに「本物の紅茶」を飲んで、微笑むなどしています。

 

部下がいなくなった後、一人になったモンスリーは鳥のさえずりに誘われて、緑豊かな中庭へ出ます。

木漏れ日の中、モンスリーはベンチに座り、ため息をつきます。

さっきの余裕ある指揮官の姿とは対照的に、モンスリーの苦労、孤独が表れています

 

モンスリーの目の前に犬が出てきて、モンスリーは久しぶりに見た犬に驚きながら「ムクおいで」と声をかけます。

 

20年ぶりの「本物の紅茶」、木漏れ日を感じるのどかな中庭、犬の登場という仕掛けによって、モンスリーは彼女の少女時代を思い出します。

 

可憐な少女だったモンスリーは、家の横で「ムク」という名の犬と戯れている最中、空爆を受けます。

目を覚ますと、緑豊かだった周囲が焦土と化していました。

さらに、そこに大津波がやってきます。

それでも漂流物によって助かったモンスリーは、孤児としてインダストリア行きの船に拾われるのでした。

 久しぶりに見た犬によって、過去の記憶が蘇ったモンスリーの目の前に、気づくとコナンが立っています。

 

このシーンは、19話の後半で、大津波が来る場面の前置きです。

大津波の接近を前に、避難の誘導、オーロとの戦いに勝つなど果敢に活躍するコナンに対し、過去のトラウマのせいか動けなくなるモンスリー。

津波後に、モンスリーはコナンに負けを認めるのでした。

 

また、このシーンは第1話の伏線の回収でもあります。

第1話のモンスリーは、「おじい」に対して、こんなことを言っていました。

モンスリー「戦争を引き起こしたのは、あの時大人だったあんたたちじゃないの。私たちはまだ子供だったわ。子どもが生き残るために、どんな苦しい思いをしたか、あんたにわかる? 戦争を引き起こして野蛮人になり下がった無責任な大人のくせに。あんたに偉そうなことを言う資格はどこにもないわ」

「生き残るために、どんな苦しい思いをしたか」は具体的には描かれていませんが、回想シーンによって、モンスリーが戦争孤児であったことがわかります。

 

第19話の庭の場面は、前置き&伏線の回収だけでなく、視聴者が持つモンスリーに対する印象が大きく変わるシーンです。

人の心の温かさがないようなモンスリーが、紅茶の美味しさによろこんだり、犬に驚いたりします。

そして、彼女の悲しい過去が明らかになります。

このシーンを観た視聴者は、モンスリーが人の心の温かさを取り戻すのではないかと期待します

 

第20話において、コナンの人を信じる心に惹かれたモンスリーは、コナンたちの仲間になります。

モンスリー「コナン、あなた本当に私を信用しているのね。私、あなたたちと一緒に行くわ」

中庭のシーンが挿入されたからこそ、視聴者はモンスリーの仲間入りをすっと受け入れることができるのです。

 

以上のとおり、敵から仲間に変わるさまが、丁寧に描かれています

登場人物の心情が大きく変わり、そして、その過程がきちんと納得できる形で提供されていると、なかなか視聴者は目が離せなくなります。

 

対する、コナンやラナのように最初から最後まで互いへの信頼が変わらないキャラクターも、それはそれで、信条の一貫性があり、素敵です。

その場合は、信条を揺さぶるような事件を、作者は作り上げて、話を盛り上げます。

 

ジブリと同じで、また観たくなる

ジブリ作品の素晴らしさは、一度観てもまた観たくなるところですよね。

ジブリ以外でいろいろな映画を観ますが、そういう作品ってなかなか無いなと思います。

 

今回、「未来少年コナン」の考察を書くにあたって、再度、部分的に観ましたが、あらためてその奥深さに気づかされました。

そして、「未来少年コナン」も、ジブリ作品のように繰り返し観たくなる作品だなと思います。

 

まだまだ書き足りないので、考察3に続きます。

 

↓【未来少年コナン・考察3】あえてセリフのない描写のことなど。

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「シュナの旅」は、宮崎駿の絵物語(漫画)です。

「未来少年コナン」で、コナンが麦にこだわるところなど、通じるところがあります

イラストも綺麗で、おすすめです。