宮崎駿『君たちはどう生きるか』を公開日に観ました。その感想です。
※以下、ネタバレあります。吉野源三郎『君たちはどう生きるか』のネタバレもあります。パンフレットが販売されていない&うろ覚えで間違っているところがあるかもしれません。
前回、主人公の眞人が「大おじ」が創った世界=異世界に入る前の出来事を書きました。
これまでの宮崎駿の作品にないダークな主人公でびっくり。
ダークに感じる理由の一つに、眞人と彼の父の後妻ナツコとの禁断の恋(⁉)があります。
今回はそのことを書こうと思います。
禁断の恋…⁉
まず、父の再婚相手ナツコの描かれ方が「妖艶」なのです。
・ナツコが妊娠したお腹を触るよう眞人の手を掴むシーン。
・ナツコが眞人の側頭部の傷を触るシーン。
どちらも二人の肌の接触がクローズアップされていて、見ているこっちがドキドキします。
また、どちらかが横たわっているベッドに、もう片方がやってくるというシーンも多いです。
使用人のばあやたちが陰で、「亡くなった母君にそっくり。綺麗なお子で変なことにならないといいけど…」みたいなことを話しています※。
容姿端麗の男性主人公が亡くなったお母さんと瓜二つの父の後妻に恋する物語として源氏物語が有名ですが、ばあやたちも同じことを連想したのでしょうか…?
※「綺麗な子であるため、実母と同じように神隠しに会わないか心配」という意味にも取れます。肌が接触するシーンもそうですが、一つの場面にさまざまな解釈ができる演出をしているなと感じます。さまざまな読みができるなかで、今回は「これってもしかして恋⁉」にクローズアップしています。
好きな人なのか?
塔のなかの世界で、キリコに「探しているナツコっておまえの好きな人か?」というふうに聞かれて、「お父さんの好きな人だ」と眞人は答えます。
この問いの答えは「お父さんの好きな人だ。(だから僕は好きになってはいけない!)」とも読めそうな気がしますが、倫理的な問題があるため、眞人はその問いについて考えることさえ放棄していたのではないかと思います。
ただ、心の底にはその問いがあったので、異界で表出したのだと思います。
この対比で、ヒミに「ナツコは眞人のお母さんか?」と聞かれ、「お父さんの好きな人だ。母さんは死んだ」と答えているシーンがあります。
何故、ナツコを探すの?
眞人は行方不明になったナツコを危険を冒して探します。
その動機は異性としての好きではなく、亡き母から贈られた吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』を読了した後の高揚した正義感によるものではないかと思います。
小説『君たちはどう生きるか』では、父親を亡くした主人公の少年コペル君が、「人間として立派な人間になってもらいたい」と父が願っていたことを知ります。
知ったのが友だちとの約束を破るという卑怯なことをした後だったこともあり、父親のその願いがコペル君の胸に突き刺さります。
母を亡くした眞人は小説の主人公に自分を重ね、それまでとは違う生き方をするようになったのではないかと思います。
そして、危険な旅をしてやっとナツコを探し出したときに、「大嫌い!」と言われてしまうんですよね。
次はそのことを書けたらなと思います。