書店でお客さんに手に取ってもらうためには、目立つ装丁は大切です。
今回は、装丁が目立つ本として『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』を紹介します。
卒業文集みたいなカバーでおなじみの
2013年に刊行された岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)。
Amazonで調べてみると、2020年5月現在でも、「すべての書籍の売れ筋ランキング」で21位というロングセラー&ベストセラーの自己啓発本です。
このカバーに使われている卒業文集みたいな紙は「レザック66」という紙。
カバーにイラストや写真は使用されていませんが、
使われている紙の質感により、有象無象が置かれている本屋の自己啓発本コーナーで、ひときわ目立つ存在感。
続編の『幸せになる勇気』のカバーにも、レザック66の赤が使用されています。
しかし、自己啓発のコーナーには、これより目立つカバーの本があるのです。
光り輝く「謎の本」
2019年12月頃でしょうか。
私が近所の書店に行き、ビジネス書・自己啓発本コーナーへ立ち寄りました。
そこに、神々しく光り輝く書籍が、大量に平積みされていたのです。
もうこういう本は、「なんだこれは?」と手に取るしかないです。
見てみると、特装版の『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』でした。
説明を読むと、200万部突破を記念した「限定特装版」とのこと。
『嫌われる勇気』はゴールド、『幸せになる勇気』はシルバーに輝いています。
輝いているだけではなく、文字のエンボス加工まで! すごい!
すぐ気になるお金の話
こりゃ、お金がかかっている!と、下世話な話を私はすぐ考えてしまいます。
本をひっくり返して値段を確認!
定価:本体1,500円+税!!
これは、普通のバージョンと同じ値段なんです。
前回、売れる本はどんどん装丁を豪華にすればよいのに、という話をしましたが、それを体現してくれているかのような「特装版」。
仮に計算してみましょう。
『嫌われる勇気』200万部すべて売れたとして、200万部×1,500円=30億円。
著者2人の印税が、仮に10%として3億円。
書店の取り分が 、仮に20%として6億円。
取次会社の取り分が、仮に10%として3億円。
以上のように仮定すると、残り60%が出版社の取り分で18億円!
その18億円から、印刷・製本代や編集者の給料、デザイナーへの支払い等を支払う訳なんですが…
まあ、ダイヤモンド社さん、ウハウハだろうなあと。
出版不況と言われて久しいです。
『嫌われる勇気』はカバーの光で、ムードの暗い出版業界を照らすほど、夢と希望に溢れた本なのです(なんだそれ)。
新しいことをやる勇気
自己啓発書やビジネス書の場合、似たような本がたくさんあるので、いかにカバーを目立たせるかが勝負となります。
いくら内容がよい本であっても、お客さんに手に取ってもらわなければ、本は売れません。
その中で、紙の材質によって目立たせている『嫌われる勇気』と『幸せになる勇気』。
さらにその上をゆく光り輝く「特装版」。
「特装版」は、私みたいに勢いで買ってしまった人もいれば、ギラギラして嫌だという人もいたり、感想は様々みたいです。
私はこの「特装版」が世の中に出てくるまでを、つい考えてしまいます。
「レザック66」の上にゴールドやシルバーを印刷しているようなんですが、それってなかなか普通ではやることのない印刷では?と思います。
きっといつも以上に本紙校正して、「できるかな?」「できましたよー」と編集者と印刷所がやりとりしてできたはず。
書名『嫌われる勇気』までエンボス加工にすると、本当に何の本だかわからなくなっちゃうから、やめたんだろうなとか。
「こんな成金趣味みたいなのはやめろ」と社内で反対する人がいても、「嫌われる勇気!」と言って返したんだろうなとか。
そもそも、通常バージョンの紙だって、普通は市販書籍に使わない紙だから、ハードルが高かったことでしょう。
以上は私の妄想でしかありませんが、さまざまなことを乗り越えて、勝負して、世の中に出てくる本たち。実に尊いです。
ブックデザイン:吉岡秀典
特装版のカバー印刷:新藤慶昌堂
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