私がこの数年で購入した本の中から、装丁が美しい本をご紹介します。
今回は第1弾です。
稲葉俊郎『いのちを呼びさますもの —ひとのこころとからだ—』(アノニマ・スタジオ)
こちらの本のカバーは、赤い厚手の特殊な紙に、
「書名・著者・出版社の名称」と「図形みたいなイラスト」(どちらも金)
だけのもの。
まるで手帖のようにシンプル。
そして、真っ赤で金文字で、おもわず「なにこの本?」と手にとりました。
ちなみに、こちらの本は、書店ではなく、「無印良品 銀座」で見つけました。
無印の本のコーナーでは、自分の好きなジャンル(料理、民藝など)の書籍が選書されているので、つい見てしまいます。
表4をご覧ください。
この本の表4(本の裏側)を見てください。
何か気づくことありませんか?
気づいたあなたは、本好きだと思います。
書店で本を売る場合、必ず、ISBNという番号とバーコードを、本の裏側に記載しないといけないのです。
例を挙げるとこんな感じです。
これは書店で本を売るシステム上、必要なものなのですが、見た目があまりよろしくないのです。
でも、『いのちを呼びさますもの —ひとのこころとからだ—』には、ISBNも、バーコードもないですよね。
実は、売られているときは、「ISBNとバーコードのシール」が貼られていたのですが、家に帰って、私が取り外したからなのです。
シールを取り外した後の、無の状態がなんと美しいこと!
洋書などを日本で売るためのシール対応は見たことがありますが、見た目の配慮でのシール対応は、なかなかないように思います。
和書でたまに見るとすれば、活版印刷のものなど、少部数のものとか。
美しいだけがすべてじゃない。コストの問題。
赤い特殊な紙。金の箔押し。バーコードのシール。
価格はいくらなんだろう?と気になった方は、Amazon等でご確認ください。
なんでもかんでも本の装丁をよくすれば、いいかと思いきや、その分コストがかかってしまうので出版社としては難しいのです。
イラストやデザインの本などでは無いのに、装丁にお金をかけていそうな本がたまにあります。
そのような本は、作者や本の中身(文章)に力があって、「この本は売れる!」と編集者が確信したからだと推理します。出版社さん、いかがでしょうか?
逆に言えば、村上春樹など売れるとわかっている著者の本は、カバーに沢山お金かければいいのに…と思うのですが、意外とそうでもない感じがします。今度は大量生産のしやすさの問題があるからでしょうか?
装丁にお金をかけることで、その本を手にしなかったかもしれない読者が、気になって買ってくれるということもあるでしょう。しかし、装丁にコストをかけても売れない場合もあり、その匙加減は編集者の腕の見せ所かもしれません。
装丁と中身のマッチ
この『いのちを呼びさますもの —ひとのこころとからだ—』は、心臓が専門の医師である稲葉俊郎氏(某俳優ではありません)が、いのちや体、病、治すことについて書いた本です。
表紙の赤さは、「いのち、血の赤さ」を連想させます。
また、図形のようなイラストは、本書の次の記述を、表したものかもしれません。
外へ向かう自分と、内へ広がる自分とを繋いでいるのは、命の働き、そのものだと思う。そうしたふたつの方向性を持つ自分は、波打ち際のような「場所」として重なり合い、相互に影響し合っている。命は、どちらの自分も失うことなく、損なうことなく、なんとか全体性を持って調和をはかろうとする働きを持っている。(稲葉俊郎「いのちを呼びさますもの —ひとのこころとからだ—」より引用)
今回は装丁についての話のため、中身については触れませんが、中身が折に触れて読みたい内容であるからこそ、手元に置くのに相応しい装丁なのだと思います。
装丁の美しさとは、手に取ってわかるもの
電子書籍も一般的になっている今、なぜ、あえて紙の書籍を所持するのか?
Amazonでお買い物ができる今、なぜ、あえて書店で本を購入するのか?
その答えは、人それぞれだと思いますが、今回はその答えの一つとして、装丁の美しさを挙げようと思います。
装丁の美しさとは、ただカバーに使用されているイラストや写真が美しいのとは訳が違います。
紙の質感や印刷の凹凸など、装丁の美しさは、そこにあるモノとしての美しさです。
ブックデザインがよいだけでもありません。
ブックデザインだけがよくても、印刷技術が追いついていなければ、商品として問題があります。
装丁の美しさは、電子書籍では味わえないし、Amazonでのお買い物では、なかなか見つけにくいものです。
なぜなら、装丁の美しさは、手に取ってわかるものだからです。
一度に複数冊を紹介しようと思ったのですが、説明が多すぎて一冊だけの紹介となりました。
次回は、また別の本を紹介します。
おまけ
ちなみに、『いのちを呼びさますもの —ひとのこころとからだ—』の本文はこんな感じです。
ブックデザインは、デザイナーの吉田昌平氏(白い立体)
印刷・製本は、シナノ書籍印刷株式会社です。
豊島区の会社なのに「シナノ」なのは、昔は「信濃佐久新聞社」だったからだそう。
表4だけ登場したのは、九螺ささら『神様の住所』です。
第28回 Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞した現代短歌の本。
言葉が好きな人はきっと好き。