『写実絵画の画家たち ホキ美術館コレクション (別冊太陽 日本のこころ)』(平凡社)
まるで写真だと思うような写実絵画の世界。
『写実絵画の画家たち ホキ美術館コレクション』は、現代の日本画家の写実絵画を収蔵しているホキ美術館のコレクションを、おうちで楽しむことができる一冊です。
美術に詳しい知識がなくても、圧倒的な技術力を見せつけられ、きっと楽しむことができるはず。
また、「リアルなら写真でよくない?」という思い込みも、覆されるはずです。
2,300円+税のやや高い本ですが、買って大満足でした。
高いとはいえ、美術館2回行くより安いんだもの。
収載されている作品が贅沢
千葉県にあるホキ美術館は、世界初の写実絵画を専門とする美術館です。
私は数年前に初めて行きました。
それまで現代の写実絵画をほとんど見たことがなかった私でしたが、写実絵画の世界にすっかり魅了されました。
「もっとみんな、ホキ美術館行こうよ! すごいよ! 草間彌生ばっかり観てる場合じゃないよ!」と思うまでになりました。
本書は、ホキ美術館の所蔵作家25名の珠玉の傑作が、贅沢に掲載されています。
画集って、自分の好きな作品が載っていないと少しテンションが下がってしまうものですが、本書は、「あれも載っている! これも載っている!」とテンションが上がりました。
本書に掲載されているもので、私の好きな2作品を紹介します。
五味文彦《レモンのある静物》
栄えある1位は「レモンのある静物」になりました。まだまだ、ふくやま・佐賀でもアンケートを実施いたしますので皆様お近くでご参加ください。
— ホキ美術館 (@hoki_museum) 2016年12月1日
さて、最終的にはどの作品が選ばれるのでしょうか。 pic.twitter.com/BSNqOWfc2Q
写真よりも、絵のほうが質感が伝わってくるってどういうこと?と驚いた作品です。
写実絵画は「写真みたいな絵」を最終目標にしているのではないのだな、ということを感じました。
三重野慶《言葉にする前のそのまま》
3/28発売の別冊太陽に何ページか出てるので自粛のお供にどうぞ pic.twitter.com/9RMcTfOkZ6
— 三重野 慶art (@mienokei) 2020年3月30日
Twitterでも度々話題になる作品です。
見開きで収載されています。
この作品を生で見た時のインパクトが忘れられません。
《言葉にする前のそのまま》は、2017年に描かれた作品です。
120年前の1897年、黒田清輝は、「女性と水」という同じ題材で『湖畔』を描きました。
100年とちょっとの間で、日本人が大きく変わったことを改めて考えさせられます。
黒田清輝 - http://www.emuseum.jp/detail/100623, パブリック・ドメイン, リンクによる
幅広い年代・題材
現代の画家といっても、1937年生まれの森本草介から、三重野慶は1985年生まれですし、おそらく一番お若い2000年生まれ!の中西優多朗と、幅広い世代の作品が掲載されています。
また、人物、風景、静物、昆虫や甲殻類もあったりと、題材も幅広いです。
島村信之《夢の箱》
《夢の箱》③
— ホキ美術館 (@hoki_museum) 2018年1月3日
描くにあたっては地獄のようなたいへんな思いをしましたが。楽しい思いもしました」。画家が本当に描きたかった1枚を、ぜひ画家の視点になってご覧ください。 pic.twitter.com/E6pJeKO71p
カブトムシって、体がほとんど同じ色で、リアルに描くの難しすぎるでしょ…と思います。
しかも、こちらは、162.1cm×227.3cmのとても大きい絵なのです。
存在感がものすごく、今にも動き出しそうで、私は見てて、ちょっと怖いくらいです。
「女性」と一言にいっても…
収載された作品の題材は、女性が一番多い印象です。
「女性」という同じ題材でも、様々な女性が描かれています。
森本草介、中山忠彦は、ドレープの美しさがわかりやすいドレスを着た女性を描いています。
一方、藤田高也《EIKO-01》や《Rina》の女性は白のとてもシンプルな服を着ていますし、第3回ホキ美術館大賞を受賞した中西優多朗《次の音》は、髪の短く、飾り気のないボーイッシュな少女です。
それぞれの良さがあって、いつまでも観ていられます。
また、年配の男性を描いた絵もありますよ。
画家のアトリエと作成過程まで載っている
「情熱大陸」でもあれば、画家のアトリエや作成過程が見れますが、普通、なかなか見れるもんじゃありません。
『写実絵画の画家たち ホキ美術館コレクション』では、14人の画家のアトリエが写真で見られます。
アトリエが本当に画家それぞれ違って、とっても面白いです。
「これって個人宅にあるものなの?」レベルの巨大なゴブラン織りのタペストリーを飾っている画家もいれば、下に座って描いている画家も、とっても雰囲気あるアトリエの画家もいます。
また、3名の画家の作成過程が、写真+説明文付きで掲載されています。
これによって、写実絵画をどう描いているのかが、なんとなくわかります。
素人には到底、真似できそうもないですが、美大生さんにはいいかも。
印刷がよい&サイズ感もよい
『写実絵画の画家たち ホキ美術館コレクション 』は、使われている紙が厚く、印刷がとっても綺麗です。
また、最近の美術雑誌は年配の読者に配慮してなのか、級数(文字のサイズ)がやたら大きく、その代わり、掲載されている絵が小さくなってしまうものが、たまにあります。
そのような本を買うのがとても嫌なのですが、代わりの書籍がないと我慢して買うしかないのです。
しかし、本書は、級数と掲載されている絵の大きさが、私にはちょうどよかったです。
本のサイズが、A4変形で、A4サイズより少し大きい。
そのため、紙面が大きいので、絵を大きく掲載できます。
紙や印刷コストを下げれば、本の価格も少し下げることができると思いますが、それをせずに高いクオリティーを保ってくださっているのに感謝です。
説明も読みごたえのあるもので、大変おすすめの一冊です。
ホキ美術館にも是非
千葉にあるホキ美術館は、2019年10月に発生した水害により、2020年5月26日現在、休館中です。
私設の美術館でもあるし心配です。
また、渋谷のBunkamuraで「ホキ美術館所蔵 超写実絵画の襲来」展が開催されていましたが、新型コロナウイルスの影響で、会期の途中で中止になってしまいました。
※その後、「ホキ美術館所蔵 超写実絵画の襲来」展は、再開されました(6/11~6/29)。
本だと繰り返し見られますし、説明も豊富ですが、言うまでもなく、やっぱり一番は実物を観ることだと思います。
休館が終わりましたら、是非、ホキ美術館にも行ってみてください。
わざわざ行くようなところかもしれませんが、わざわざ行く価値がありますよ。