内田樹『そのうちなんとかなるだろう』(マガジンハウス)
内田樹の人生がわかる一冊です
彼が、子どもの頃、どんなふうな環境で育ち、高校を中退し、
武道を始め、東大文学部で学び、やがて大学教員になり、
父子家庭を経て、やがて売れっ子の作家になり、
定年退職後に自前の道場を開いたのかがわかるという…
内田樹ファンにはたまらない一冊です
内田樹先生をご存じない方には、なんなんだこの人はという感じですよね
合気道の師範で文学部教授
この本のカバーの袖には、著者のプロフィールについて
1950年東京生まれ。武道家(合気道7段)。道場兼能舞台兼私塾「凱風館」館長。
神戸女学院大学名誉教授。翻訳家。
専門はフランス現代思想史。東京大学文学部卒業。
ブログ『内田樹の研究室』(http://blog.tatsuru.co)主宰。著書多数。
と記載されています
内田先生についての、私のイメージは
著作の多い思想家で、大学の文学部の教授で、合気道もできるらしいというものでした
おぼろげに知っていた内田先生に関する知識
たとえば、高校中退なのに、東大へ行ったとか
レヴィナスの研究とか日本でマニアックすぎて、なかなか大学教員になれずに苦労しただとか
子どもはいるようだけれど、奥さんはどうなんだろうとか
そういうことが明らかになり、そうだったのか!とすっきりしました
と、かなり俗な話を続けましたが
真面目な話をいたしましょう
『先生はえらい』
私がこの本を読んで、一番強く感じたのは
あのとき内田先生から聴いたことと同じだ!というよろこびです
私は中学三年生の時、繰り返し読んだ一冊の本があります
それが、内田樹『先生はえらい』でした
これは、ちくまプリマ―新書から出ているもので
ちくまプリマ―新書は、中学生・高校生が無理なく読めるような易しい言葉で書かれた新書のレーベルです
ちくまプリマ―の他の新書を読んで、面白く感じ
その流れでたまたま書店で、内田樹という名を知らずに
『先生はえらい』を手に取ったのでした
そして、一度読むだけでは飽き足らず、繰り返し読み、やがて書かれていることが自分の考え方の一部になるまでになりました
大学の教員が「先生はえらい」だなんてけしからん!と思う方がいるかもしれませんが
そういう方がイメージしているような話ではないのです
「先生はえらい」について簡単に申し上げると
「コミュニケーションはつねに誤解の余地を確保するように構造化されている」
という一見難しそうな、矛盾しているような一文ですが
これが中学生にも「確かに、そうだ!」と思わせるよう上手く書かれているのです
なんとなくに従う?
中学生のときに内田樹ファンになった私でしたが
高校生になって、自分のいる高校に講演会で内田樹先生がいらっしゃるという
とんでもないことが起こったのです
内田先生はその頃、あまり講演会はされていないようでしたが
たまたま学校関係者に内田先生の知り合いがいて、実現した話でした
私は講演会の当日、最前列の端の席でノートを取りながら、お話を一つも聞き逃すまじと伺っていたのですが
緊張していたのと、そのノートを失くすという(大切なものほど失くしやすいのだろうか…)
ろくでもない奴でして、今ではその講演会の全てを思い出すことはできません
ただ、一つ覚えているのは、職業や学部の選択の際に
あれこれ理由を並べて選ぶのではなく
「「なんとなく」に従って生きるほうが「自分らしく」なれるよ」
ということでした
(上記は『そのうちなんとかなるだろう』からの引用です。講演会の話を一字一句は覚えていませんが、ほぼ同じ意味のことをおっしゃっていたという記憶があります)
そして、今回「そのうちなんとかなるだろう」を読んで
あの時の話と同じだ、しかも、ご自身の体験を元にした言葉だったのかと感慨深くなりました
高校生の頃の、まだ人生がこれからどうなるか全く謎な感じがしたのと違って
今は、大学進学、就職を経ましたが
現状に満足していない今の自分に
また異なる意味で突き刺さる言葉たちが本書にはありました
私は、この本の書名を見ると、こち亀の曲(厳密には植木等の曲)が頭に流れます。