最相葉月・増崎英明 『胎児のはなし』(ミシマ社)の感想です。
刊行当初に一度読んだのですが、その後、妊娠したので再読しました。
役に立たない楽しい本
ライターの最相葉月氏が、日本産科婦人科学会理事などをされていた長崎大学名誉教授の増﨑英明先生に、胎児のこと、出産のこと、最新の産科医療のことなどを訊いていくという内容の本です。
この本の執筆コンセプトは、「楽しくてためになる“役に立たない”本にしましょう」。
確かに、一般人が、すぐに役に立てられそうな知識を得られる本ではありません。
他方、本書が「楽しい本」というのは、同意するところです。
胎児の表情やおしっこという話から、超音波検査などの産科医療の進歩、中絶・出生前診断・生殖医療の倫理的な問題まで、話題は多岐にわたります。
本書を読む中で、産科で今はこんなことができるのか、こんなことが知られているのか、と思うことがたくさんありました。
というわけで、
【本書が向いている人】
好奇心があって、役には立たなくてもいいから、胎児や出産のことを知りたい人
【本書が向いていない人】
すぐに役立つ知識が欲しい人
だと思います。私は前者なので、楽しく読めました。
妊娠する前と妊娠した後で変わった感想
妊娠する前、この本を読んだときに、とくに印象に残ったのが、「3Dエコー」と「胎児のDNAが母体の血液に入る」という話でした。
しかし、それらは、妊娠して産科に通ったり、妊娠に関する情報を集めたりしているなかで、そんなに特別な情報じゃなかったかもと後から思いました。
3Dエコーは、私が通っている街のクリニックでも、追加料金を数千円出せば、やってくれます。
胎児のDNAの話も、NIPTやクアトロテストを妊婦の血液を用いて検査することを考えれば、確かにそうなんだろうなという感じ。
しかし、それら以外に、一度読んだはずなのに忘れていたことが多くあって、へぇーと思いながら再読しました。
たとえば、胎児のおしっこと羊水の話、外回転術、帝王切開の比率の推移などなど。
また、最近、妊婦向けの媒体に触れることが多かったからか、本書での二人の話しぶりは妊婦と距離が遠い感じがするなと思いました。痛みとか無痛分娩のあたりのところとか。
妊娠する前に読んだときはそんなふうに感じなかったので、自分には妊婦であるという意識が芽生えたんだなと改めて思いました。
役に立たないことも、なにかに繋がるかも
その他に、エイズ患者と帝王切開の話のなかで、増崎先生が話されていた次のことが印象に残りました。
ものごとがわかっていくことっていうのは、今すでに起こってることをよく観察することによって気づかされるんです。それがすばらしい。今も気づかずに通り過ぎてることがいっぱいあるんじゃないかなと思います。ぼくがこれまで話したこともそうですよ。証明されてないことがほとんどなので。でもそれを突き詰めていくことで人の役に立つ可能性もある。役に立たない、たんに楽しいだけかもしれないけど。
(最相葉月・増崎英明 『胎児のはなし』より引用)
これは、首を大きく縦に振って、賛成したいところです。
増崎先生はここで医療の発展に関して話していますが、私はなんでもそうだよなと思います。
すぐに役立たないからといって捨ててしまうのは、もったいないと思います。そこにダイヤモンドの原石があるかもしれないし。
ただ、そうは言ってもいられない事情が、医療の世界でも身の回りにもありますが。
せめて本は、いろいろ気にせずに自分が読みたいと思うものを読めるといいなと思います。