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クリストフ・マルケ『大津絵 民衆的諷刺の世界』の感想です。

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最近、マイブームが大津絵かもしれません。

東京ステーションギャラリーで大津絵展を観たり、現代の絵師が描いた大津絵を手に入れたりしました。

大津絵をもっと詳しく知りたい!と思ったときに、手に取ったのが、クリストフ・マルケ『大津絵 民衆的諷刺の世界』(角川ソフィア文庫)

 

文庫にしては、税別1,400円とお高めですが、中を開いてみて、納得。

図がオールカラーで収録されているのです。これはうれしいこと。

専門的でも読みやすい文章で、大津絵に興味のある方に、おすすめです。

 

ざっくりとした概要

第1章は、大津絵の歴史。

大津絵がいつ頃、どのように誕生したのか。画題の遍歴。江戸時代にどのように受容されていったか。また、現代の大津絵を取り巻く状況が書かれています。

 

第2章は、篆刻家の楠瀬日年が古大津絵を模写したものを元に作成した版画に、解説を加えたもの。78の画題が解説されています。

 

第3章は、明治になり、大津絵の土産物として人気がなくなった後、画家など文化人による受容について。とくに、楠瀬日年について書かれています。

 

感想

意外と残っていない大津絵

2章の、78の画題の解説を読むだけでも面白くて、十分読んだ価値があったような感じがしました。

この前の東京ステーションギャラリー「もうひとつの江戸絵画 大津絵」展で観た達磨大師の画題も紹介されていて、解説を読んでみると、「大津絵として残っている作例は一点知られているのみである」とのことでびっくり。

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その他の画題でも、現存しているものはなかったり、確認できるもので現存するものは数枚だったり、全然残っていないんだなと思いました。

大津絵も浮世絵のように、早い時期に西欧人に「発見」されていたら、もっと残っていたのではないかと思います。

 

著者はフランス人

著者のクリストフ・マルケ氏はフランス人の研究者で、本書のフランス語版が日本語版に先行し、2015年に出版しているとのこと。そのことにも驚き。

表紙に使われている大津絵が、日本人の好みとはちょっと違うなと思うのですが、どうでしょうか?

日本人でも知らない人が多い大津絵についての本を、フランスの読者が手に取っているのかと思うと、胸が熱くなります。

 

現役の絵師は一軒のみ 

現役の大津絵の絵師は高橋家だけとのことで、前に調べた時も少ないんだろうなと思っていたけれど、一軒だけとは。

 

そういう状況は、今戸焼にも似ているなと思いました。

今戸焼は東京の今戸で作られていた焼き物。

歌川広重の『名所江戸百景』にも今戸焼の釜から煙があがっている浮世絵がありますし、落語でも、落語家の弟子が、師匠に内緒で内職をしようと、今戸焼の土人形の絵付けを斡旋してもらう話があります。

幕末には50軒ほどの工房があったのだとか。

しかし、需要の減少で、現在、同地で今戸焼を行っているのは、白井家のみかと思います。

今戸焼のほうは古典的な土人形の姿ではなく、現代の人の好みにあった土人形を制作されていて、結構人気みたいです。私も招き猫と狐、持っています。

大津絵はどちらかというと保守的な感じがします。どちらも、うまいこと続いていってほしいなと思います。

 

大津絵はどうやって誕生したのか

本書の3章で紹介されている楠瀬日年の大津絵考は、興味深いものでした。

日年は、大津絵はお札絵が変化して生まれたもので、誰ともなしに、一枚描かれ、一枚描かれ…で「大津絵」と呼ばれるものになっていったのではないかと考えていたようです。

1章で、大津絵の成立について書かれているのですが、なぜ、大津で大津絵が成立したのか、今でもこれといった定説はないようです。

 

「お札絵」と画像検索すると、福沢諭吉、野口英世…が出てきてしまって、役に立ちません。日年が意図しているものと違うかもしれませんが、降魔札とか護符で画像検索すると、絵のあるお札を見ることができます。

初期の画題の「十三仏」に似たお札を、今も扱っているお寺も見受けられます。

 大津絵は、まだまだ研究する余地のある分野だと思います。

 

長々と書いてきましたが、大津絵の入門に『大津絵 民衆的諷刺の世界』はおすすめの一冊です。

 

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