山崎ナオコーラ「趣味で腹いっぱい」(河出書房新社)の感想です。
※ネタバレを含みます
あらすじ
父親から「働かざるもの、食うべからず」と言われて育ち
高校卒業後、銀行員になって、勤勉に働く小太郎
平安文学を大学院で勉強し
一コマだけ教えている大学講師に将来性を見出せず
書店でアルバイトをしている鞠子
お茶の先生の紹介で二人は出会い
小太郎は、鞠子から聞いた彼女の生活を不安定に思うが
「毎日、わくわくしながら過ごしている」と話す彼女の支えに、自分はなれると感じる
その二人が結婚し、小太郎の引越しを伴う転勤によって
仕事を辞めた鞠子は趣味(絵手紙、畑作り、俳句etc.)に打ち込むようになり
小太郎も鞠子の影響を受けて…
というお話です
感 想
読んでみて、鞠子のようになれたら、幸せだなとつくづく思いました
小太郎に出会ったときの鞠子は27歳
鞠子は大学院を卒業したけれど
大学教授には自分はなれないと感じていて、書店のアルバイトをしています
そういう状況は、小太郎が感じたように
不安定に見える人が多いでしょう
でも、鞠子は
「ただ、今の生活だけ見るなら、書店の仕事も、文学の研究も、とても楽しいです」と、現状を楽しんでいます
また、鞠子と小太郎が結婚する際にも
鞠子は主婦になることを希望し
家計や職歴の心配を小太郎がしても
鞠子は迷うそぶりもなく
主婦の素晴らしさや、もしものときは自分が働くなどと言って
正社員になろうという気持ちがありません
その後、趣味の世界にのめり込む鞠子ですが
特に誰かと競うことはなく、単純に趣味を楽しもうとしています
自由でかえって苦しいこともあるけれど
20代後半~30代の女性は
キャリアウーマンとしてバリバリ働く人もいれば
結婚して、子どもが小さいうちは専業主婦の人もいるし
フルタイムで共働きでも、子どもがいたり、いなかったり
一昔前の女性たちと違って、実に様々な選択肢があるといえるでしょう
男女の雇用機会均等や
少子高齢化の中で女性の労働力が求められている
世の中の流れで生み出された今の環境は
一昔前の女性と比べれば、格段の自由があるはずなのに
かえって自由であることによって
本当の幸せとは何か、自分の選んだ道が正しかったのか
この世代の女性は悩みやすいのではないのではないでしょうか
勿論、一昔前の女性の扱いに戻りたいという話ではありません
同じ高校や大学を卒業していても
この世代の女性の暮らしぶりは人によって様々です
同窓会や結婚式で、他の女性の近況を聞いて
自分が選んだ今の生き方は本当によかったのかと
これから先どうなることやらと
ぼんやりと思うこともあるでしょう
一方で、鞠子は自分がよければ、すべてよしというふうに
今を楽しみ、人と比べることをせずに毎日を生きています
鞠子のように生きられたら、どんなにいいだろうと思いつつも
なんとかなるさの精神が足りない私にはとても難しそうだなと思いました
カバーイラストがとってもかわいいですね。イラストは、姉妹ユニット「ちえちひろ」によるものです。