雑誌「ku:nel」(クウネル)は、2016年にリニューアルされました。
リニューアル以降の「新クウネル」とそれまでの「旧クウネル」では、「同じ雑誌なの?」と首をかしげてしまうほど、コンセプトが変わっています。
そのため、リニューアルの際には、「旧クウネル」の愛読者から強い反発もありました。
「新クウネル」しか知らなかった私でしたが、
今回、「旧クウネル」2004年5月号を読みながら、
「どうして、リニューアルしないといけなかったのだろう?」
「リニューアルをしたことで、問題は解決されたのだろうか?」
と考えていました。
「旧クウネル」を1冊読んだだけですし、雑誌作りに詳しくありませんから、的外れなことを書くかもしれませんが、調べてわかったことや思ったことをつらつら書こうと思います。
収益の問題
まず、「クウネル」のリニューアルの必要性が、雑誌の収益に問題があったからだと推測します。
たとえ、編集長が変わろうとも、利益が大きい雑誌なら、会社として大幅な改変は行わないだろうと思うからです。
発行部数の減少
「ku:nel」(クウネル)の発行部数について調べてみると、次のとおりでした。
2019 年 280,000 部
2018 年 284,500 部
2017 年 301,250 部
2016 年 387,250 部※1
2015 年 226,750 部※2
2014 年 326,250 部
2013 年 308,500 部
2012 年 361,500 部
2011 年 380,250 部
2010 年 417,500 部
2009 年 434,750 部※1 2016年3月号より「新クウネル」
※2 2015年9月号まで「旧クウネル」
(一般社団法人日本雑誌協会 印刷部数公表データより集計)
この記事を書いた時点で、1年間の発行部数を確認できるデータが2009年1月~2019年12月でしたので、上記の数字を載せています。
また、実売部数のわかるデータは見つかりませんでした。
上の数字から、「旧クウネル」の発行部数は、2010年まで年間40万部を超えていたのが、2013年には年間約30万部にまで減っていたことがわかります。
そして、リニューアルした年の2016年は、約38万部に増加。
しかし、2017年は約30万部、2018年と2019年は約28万部と、「旧クウネル」時代よりも発行部数が減っていきました。
広告を入れにくい雑誌?
雑誌の収益として、広告収入も重要です。
現在、書店で販売されている「新クウネル」を見ると、高価な化粧品やアパレル、おしゃれ家電やこだわりの食品など、たくさんの広告が掲載されています。
一方で、私の手元にある「旧クウネル」2004年5月号では、「新クウネル」よりページ数が少ないためか、広告の量が少ないように感じました。
「旧クウネル」2004年5月号では、無印良品、ROPE' PICNIC、ネスカフェゴールドブレンドなどの庶民的なブランドの広告が目立ちます。
他には、TOYOTAのオレンジ色のヴィッツ、Panasonicの固定電話、トヨタホーム、イラスト教室、マーガレットハウエル、マットレスなどの広告が掲載されていました。
「新クウネル」は、「パリのおしゃれマダムに憧れる50代の女性」というわかりやすい読者層があるので、企業も広告を出稿しやすいでしょう。
一方、「旧クウネル」は、2004年5月号に掲載された広告を見る限り、広告のターゲットを定めにくかったかもしれないなと思いました。
また、「新クウネル」と「旧クウネル」の読者では、物質的な幸せを求めるか、日常生活でのストーリーの充実を求めるかに違いがあると感じました。
「新クウネル」の読者層として、ファッションや化粧品といった特集に興味のある、どちらかというと物質的な幸せを積極的に求める読者が想定されます。
「旧クウネル」は文字量が多く、一般人の趣味や仕事、家庭料理といった特集が多くあり、日常生活のストーリーに焦点が当てられます。
「旧クウネル」の読者も、勿論、買い物はするでしょうが、「新クウネル」の読者ほど購買意欲は強くないのではないかと想定されます。
そのため、広告主としては、購買意欲の強い読者層が期待できる「新クウネル」のような雑誌に、広告を出稿したいのではないかと思います。
広告については、リニューアル直前の号などに掲載された広告を調べると、より分析できると思うのですが、今回はそこまでやっていません。
定価の改定
他にも、収益の改善として、定価の改定が行われています。
- 2021年3月号 :980円
- リニューアル直後:760円
- リニューアル直前:700円
- 2004年5月号 :680円
この記事を書いた時点で一番新しい号の2021年3月号の定価は、2004年5月号より300円高くなっています。
定価を上げることで、発行部数の減少を補てんしているのでしょう。
たとえば、定価680円で約40万部売るのと、定価980円で約28万部売るのでは、後者のほうが売り上げが多いです。
また、「新クウネル」は、電子版の販売、「楽天マガジン」などの雑誌読み放題サイトでの掲載があるので、そちらからの売り上げもあります。
発行部数は伸びなかったかもしれないけど
発行部数を調べる前、「クウネル」は、リニューアルによって部数が伸びたのではないかと期待しました。
確かに、リニューアルした年の発行部数は増えていました。
しかし、その後は、「旧クウネル」時代よりも減ってしまっているという結果がわかりました。
リニューアルしても、出版不況には抗えなかったのですね。
「暮しの手帖」のように広告無しとまではいかなくても、定価998円とかにして、「旧クウネル」を続けていくことはできなかったんだろうか、と思います。
ただ、雑誌によっては、雑誌そのものの売り上げよりも、広告収入のほうが多いなんて話も聞きます。
版元のマガジンハウスは、リニューアルによって「クウネル」の販売部数が伸びることを期待したことでしょう。
結果として期待した販売部数の増加が達成されなかったとしても、定価アップと広告収入を獲得しやすい紙面に変えたことで、収益改善につながったのではないかと思います。
少し話はズレますが、広告掲載なしの「暮しの手帖」が「クウネル」に比べ、発行部数が多いかというと、そうでもなさそうです。
「暮しの手帖」の2018年10月~2019年9月の発行部数は、20万部です(一般社団法人 日本雑誌協会のデータより)。
調べていく中で、「暮しの手帖社、どうやって経営しているんだ?」という新たな疑問が生まれました。
本屋さんの雑誌の棚はやがて
私の知り合いに、ある雑誌の編集者さんがいます。
2020年夏頃、「コロナ禍で広告の出稿が減ってうちの雑誌は存続の危機だ」という話をその人から聞きました。
現在、幸いなことにその雑誌は続いていますが。
あと10年もすれば、書店の雑誌の棚も、だいぶ様子が変わっているのかもしれません。
今の自粛の状態はいずれ改善されるのかもしれませんが、このまま雑誌を読む人が年々減ってしまえば、企業も雑誌広告ではなくウェブ広告へ切り替えることでしょう。
そうなれば、広告収入頼みの多くの雑誌は、存続が厳しくなるでしょう。
お金を払うということは、見える形での応援でもあり、これからも好きな雑誌は、ちゃんと新刊を買おうと思ったのでした。