よりよい日々を

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阿部直美『おべんとうの時間がきらいだった』(岩波書店)

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阿部直美『おべんとうの時間がきらいだった』(岩波書店)の感想です。

人気連載 「おべんとうの時間」の文章を書いた人が、「おべんとうの時間が嫌いだった」なんて?と思い、手に取りました。

 

「おべんとうの時間」はとてもよい

「おべんとうの時間」は、ANAの機内誌『翼の王国』の連載です。

 

内容を知らない方に説明すると、

  • 様々な仕事をしている一般人のお弁当の写真
  • その人のポートレート
  • その人のインタビュー

が掲載されています。

 

書籍にもなっていて、私は書籍で知りました。

 

「お弁当の本」といっても、レシピ本ではない。

しかも、有名人ではなく、一般人のお弁当。

そんな本のどこが面白いの?と思う人もいることでしょう。

それが、とっても面白いんです!

 

お弁当を通して、その人の人生を垣間見た感じがします。

 

たとえば、道をすれ違った自分の知らない人々も、それぞれの人生を生きている。

当たり前だけど、意識しないと、自分の知らない人ってまるで影のような存在です。

そういった、自分の知らない人たちに、こんな人生の一面があるということを教えてくれるのが、この本です。

読むと、胸が温かくなります。

 

「おべんとうの時間」の作者は、

阿部 了(写真)  阿部 直美(文) となっています。

ご夫婦で取材されているのです。

 

私は、『おべんとうの時間』を読んで、阿部夫婦はどんな人たちなのだろうとぼんやり気になっていました。

今から数年前のことです。

 

最近読んだ、行司千絵『服のはなし』(岩波書店)の巻末広告に、

阿部直美『おべんとうの時間がきらいだった』四六判 二三六頁 本体一九〇〇円

とあるのを見て、「おべんとうの時間の人じゃん! これは気になる!」と思い、『おべんとうの時間がきらいだった』を手に入れました

 

今回も当たりでしたが、前回、岩波書店を信頼して読んだ『服のはなし』も当たりでした。

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ネタバレしすぎないあらすじと感想

あまりネタバレしすぎないように、あらすじをたどります。

そうはいっても、「まだの人は、先に買って本を読んで。面白いから」と思います。

読む前に情報を入れずに読んだ方が、楽しいと思うからです。

 

お弁当は残酷

「おべんとうの時間がきらい」なのは、中学1年生のときの著者です。

彼女のお母さんが作ったお弁当は、昨晩の残り物だけが詰められたお弁当や、彩りのない茶色のお弁当といった「あそび」のないものでした。

 他人に弁当を見られることが、何よりも嫌だった。我が家の湿っぽい食卓を、友達には知られたくなかった。(中略)
 弁当というものは、残酷だ。中学一年生で、私はそう思った。自分が背負っている家族を、小さな箱と向き合う度にいつも突きつけられる。

(阿部直美『おべんとうの時間がきらいだった』より引用)

彼女は、なぜ、母が「あそび」のないお弁当ばかり作るのか考えます。

彼女が出した答えは、母の性格に加え、食へのこだわりが強い父のせいで母が疲れてしまい、お弁当に彩りを与える余裕がないことでした。

 

このお父さんがすごいんです。

毎晩、自分が決めた「蕎麦」「マグロの刺身」といったものが夕飯にないと怒りだすという人。

近隣住民との騒音問題の話も出てきますが、自分の思い通りではないとたちまちに怒鳴り散らすという人です。

こんな人と一緒に生活していれば、家族は疲弊してしまうだろうなと思います。

 

アメリカ留学&ホームステイ

著者は、高校生のときにアメリカへ留学し、ホームステイをします。

彼女は、ホームステイ先の家族に接して、自分の家族になかったものに気づきます。

 

著者のお父さんもすさまじいですが、アメリカの学校の話も「こんななんだ!」とびっくりしました。

 

それと、ホームステイ先の娘さんとのすれ違いの原因となった、著者の性格の一面は、私にも似たところがあって、考えさせられました。

 

夫のサトルさんとの出会い

成人した著者は、将来の夫となるカメラマンのサトルさんに出会います。

 

「おべんとうの時間」の企画の発案者は、サトルさんでした。

学生時代の思い出から、お弁当にネガティブなイメージがあった著者は、当初、人のおべんとうを撮影することに抵抗を感じます。

そんな著者も、やがて、お弁当にだんだんと魅了されていきます。

 

そして、著者は娘を授かり、また、自分の父や母と向き合うことになり…。

といったお話です。

 

著者がサトルさんに出会えて、「おべんとうの時間」というものに出会えて、本当によかったなと思います。

サトルさんは、親の喧嘩を見たことがないという、著者とは正反対の両親の元で育ちました。

そんなサトルさんは、子どもの頃の著者が欲しかったけれど得られなかったものを、著者に与えてくれます。

 

私の知り合いの女性に、お父さんが暴君だから生涯結婚したくない!と決めている人がいます。

私は、その人のお父さんがすべての男性の代表ではないのだから、恋愛や結婚にチャレンジしてみるのもありなんじゃないかと思っています。

私自身も著者と同じく父親に反感を抱いていたので、父とは全く違うタイプの人と結婚しました。

著者もそうですが、私も結婚したことで救われているように感じます。

 

最後、また、著者のお父さんのことがでてきます。

「おべんとうの時間」の取材を重ね、様々な人に出会った後の著者は、自分の父親に対する見方が変わります。

ここがこの本の一番面白いところかも。

未読の方は、是非読んでほしいです。

 

小説よりも面白い

最近、私は小説を読むことが少なくなりました。

小学生の頃、魔法使いも忍者もトトロも存在しないこの世界に絶望したくらいに、フィクションの世界に魅了されていた私。

 

大人になって、最近は、フィクションの世界よりも、現実世界のほうが面白い!と感じることが増えました。

『おべんとうの時間』も『おべんとうの時間がきらいだった』も、その人の長い人生の中から抽出されたものを文章として読むことができ、とっても面白いです。

 

また、今回、著者が自分とその家族をこれだけ見つめている人だからこそ、あの「おべんとうの時間」の文章を書くことができるのだなと思いました。

 

絵本を中心に、子どもと親の思いを描くエッセイ

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親子はなかなか難しい。

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