「あの美術展は、なぜ混雑しているの?」
「どうして、美術館の常設展のほうはガラガラ?」
その疑問と深くかかわるのが、美術館とマスコミの関係です。
古賀太『美術展の不都合な真実』(新潮新書)を読み、人気の美術展の裏話に驚きました。
混雑している美術展。ガラガラの常設展。
海外の有名美術館から作品を借りてきた「○○美術館展」といった「企画展」は、土日にもなると、満員電車のように混雑します。
他方で、美術館の所蔵作品を展示している「常設展」は、ガラガラ。
一つの展示室に、一人の観客と監視員しかいないこともあります。
私は、美術展を見始めるようになって、このことをずっと疑問に思っていました。
美術展が混む原因は、新聞社・TV局⁉
古賀太『美術展の不都合な真実』によると、「○○美術館展」のような大きな企画展には、新聞社やテレビ局がかかわっているのだそうです。
たとえば、「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」のポスターを見ると、「主催」のところに、次のように書かれています。
主催:国立西洋美術館、ロンドン・ナショナル・ギャラリー、読売新聞社、日本テレビ放送網
『美術展の不都合な真実』によると、話題になる展覧会の多くは、新聞社やテレビ局が主催としてタッグを組んでいるのだそうです。
そして、この仕組みは、日本独自のものなんだとか。
主催の新聞社・テレビ局は、自社の媒体をフル活用して、「○○美術館展」を広告宣伝します。
その宣伝の効果で、客はどんどん増え、まるで絵ではなく、人の頭を見るような美術展ができあがるという訳です。
企画展をすると、マスコミは儲かるのか?
なぜ、そこまでしてマスコミは、企画展に客を入れたいのか?
それは、全盛期よりも本業の収益が減ったマスコミが、美術展のチケットをたくさん売って、儲けたいからです。
国立館の共催展のチケットは「常設展もご覧いただけます」と案内されますよね。この仕組は、チケットひとり分につき、常設展分の料金が美術館に配分されるということです。つまり、共催展チケットが1700円でもともとの常設展が500円であれば、1700円のチケット収入のうち500円分が美術館の、残りがメディアの取り分です。
(美術手帖「大型展覧会は変わるべき? 『美術展の不都合な真実』著者・古賀太に聞く」より引用)
名画を海外から持ってきて、展示をするには、輸送費、保険費、監視員などの人件費など、多額の費用がかかります。
経費の負担の割合など、詳しくは『美術展の不都合な真実』を読んでほしいですが、
主催の新聞社やテレビ局は、展覧会にかかる費用を負担しています。
その費用を回収するために、さらには儲けるためには、大勢の客を美術館に入れないといけないという訳です。
「美術展が、なぜ混雑しているの?」という疑問。
その答えの一つは、「マスコミが収益を得るために、集客しているから」となります。
裏を知っている人だから書けること
『美術展の不都合な真実』を書いた古賀氏は、朝日新聞社で展覧会の企画に携わっていました。現在は、日本大学芸術学部教授(専門は映画史)です。
つまり、実際に、新聞社で展覧会を企画していた人が書いた本です。
「美術館女子」炎上にも、新聞社との関係が
ところで、2020年6月、「美術館女子」というワードが、Twitterを中心に炎上したのをご存知でしょうか。
「美術館女子」――。読売新聞で「月刊チーム8」を連載中のAKB48チーム8のメンバーが各地の美術館を訪れ、写真を通じて、アートの力を発信していく。
(読売新聞「美術館女子 東京都現代美術館×小栗有以」より引用)
女性アイドルが美術館を訪れるという、この企画の名称が「美術館女子」でした。
この企画に、
- 『○○女子』というジェンダーハラスメントではないか。
- 作品よりも『映え』を優先するのは間違っている。
などという批判が殺到しました。
その批判を受け、「美術館女子」のサイトは公開終了となりました。
このプロジェクトを行ったのが、全国約150の公立美術館で作る「美術館連絡協議会」と読売新聞オンラインです。
ここにも、美術館とマスコミの関係があります。
この炎上は、『美術展の不都合な真実』刊行後の出来事ですが、この本には「美術館連絡協議会」という組織が何をやっているところか、についても書かれています。
日本の美術館が抱える問題
あとがきに、関係者から「そこまでばらさなくても」と言われるかもしれないとあるように、
裏を知っている人だからこそ書けた「美術館とマスコミ」の関係。
そこには、一般人が知らない、マスコミに依存した日本独自の美術館の姿があります。
「美術館が好き!」だけにとどまらず、今、日本の美術館が抱える問題について考えてみませんか?
『美術展の不都合な真実』私の感想
以下は、私の『美術展の不都合な真実』を読んだ感想です。
今まで、私は美術館に行く中で、疑問に思っていたことが、いくつかありました。
- 東京国立近代美術館の常設展はよいのに、なんで、ガラガラなんだろう。
- 海外の美術館は、あんなに空いていたのに、どうして日本は…。
- 「フェルメール展」は時間日時指定制でも、混雑が本当に酷かった。
- 主催の「○○新聞」や「〇〇テレビ」は、何してるの?
『美術展の不都合な真実』を読んで、これらの疑問が氷解しました
この本では、「○○美術館展」について批判的に書かれています。
それでも、私は有名な絵が見たいときには、これからも「○○美術館展」にも行くと思います。
「ロンドンナショナルギャラリー展」のチケットも買ってあります。
しかし、本書を読んで、企画力のある美術展に着目したり、常設展へもっと行きたいなと思いました。
本書の終わりには、「本当に足を運ぶべき美術館はどこか」と題して、行くべき美術館が書かれているので、参考にしようと思います。
そこに書かれた、いくつかの美術展には私も行っていて、「確かに、よかった!」と共感するからです。
たとえば、夏目漱石の美術世界展。
行ける日が最終日で混雑していたけれど、忘れられない展覧会の一つです。